2020年02月01日

浮世の画家

藤本有紀という名前を

初めて知ったのは、

「天才柳沢教授の生活」というドラマ。

メインの脚本家は土田英生で、

原作は知らなかったけど、えらく面白いドラマだった。

1話完結形式なので、毎回微妙に“面白さ”に差があって、

お、今回は面白いな、と思ったある回を

書いていたのが、サブの藤本有紀だった。

藤本さんはその後、

土曜時代劇「ちかえもん」(NHK)で

向田邦子賞を受賞している。

 

昨年NHKで放送された「浮世の画家」が
2月11日に再放送される。 

カズオイシグロ原作の力作だ。

終戦直後の日本を舞台に、戦時下に犯した“罪”の記憶に苦悩する

画家の姿が描かれる、単発のスペシャルドラマだ。

 

力作?そう、文字通り、おおおお力入ってんな〜〜という意味で、力作。

主演の渡辺謙をはじめ、

奥田瑛二、小日向文世、長谷川初範、広末涼子、

前田亜紀、萩原聖人、佐藤隆太・・と

1回こっきりの90分ドラマに

豪華すぎる顔ぶれを揃えている。

キャスティングだけではない。

脚本、演出の隅々にまで妥協がない。

朝ドラのように、読者の娯楽のためにつくってます、という感じではなく、

作中に描かれた芸術家のように、

求道的と言いたいくらいの“本気度”だ。

台詞とか、どこまで原作に依ってるのかわからないけど、

藤本有紀の脚本は、スルメのように噛み応えがあり、

渡辺一貴の演出は、音楽の使い方がいい。

こおおおゆうううドラマが観たかったんだよおおおお
と心の中でガッツポーズ。

 

NHKの単発ドラマって、

ときどき、何のためにつくったのか・・てのもある。

出来不出来ではなく、

今、このドラマを、誰に向けて、何のために?
みたいな。

きっとプロデューサーが

こういうの一度つくってみたかったんだろうな、みたいな。

それはそれでいいと思うし、そういうドラマも観たい。

 

でも、この「浮世の画家」の場合は、

なんとなくわかる気がする。

戦争、と、それに続く日常。責任と苦悩。

なんか、今の時代の不穏な空気にシンクロしていて

今だからこそ、胸に入ってくるドラマだった。

 

NHKは、報道はすっかり偏向しきってるので、

ニュースは一切みなくなったけど、

表立って政権批判できない分、

こういうところで、抵抗してみせる、みたいな。

制作スタッフの矜恃を感じる。




pandawatchingdrama2 at 14:15|PermalinkComments(0)

2019年10月18日

「モトカレマニア」は 「マトリックス」である

これは極度に内向する、あるいは、

すべてが内面化する時代を描いたドラマである、

と独断してしまったので、

久しぶりに押さえておきたい(自分的に)ドラマに当たった気がする

「モトカレマニア」。

 

ヒロインのユリカ(新木優子)は、

元カレ(高良健吾)と別れて5年経つのに

元カレが忘れられない、というか引きずっている、

それが偶然にも転職した会社で再会して・・・

ってシチュエーションだけ言うならば

ふつうにラブコメなんだけど、

このドラマはふつうじゃない。

 

別れて後5年の間に

元カレは内面化されている。

彼女の内面にだけ存在する架空の存在としてのモトカレになっているのだ。

それがつまり「マニア」ということで、

マニアとは、あることを好きすぎて、

自分だけの価値を創り上げている人のことで、

たとえば、それらを集めたり、手に入れたりすることは、

自分だけに価値があることで、

そこで完結している。閉じている。

他の人がどう思おうと、どう評価しようと関係ないのだ。

この価値観のスタンドアローン化、というのは

極めて現代的・・・のような気がする。

 

原作は読んでないので、どうなってるのか知らないけど、

この「すべてが内面化した世界観」を描くことについては

おそらく制作は意図的だと思う。

ユリカが、自分だけに見える(他社には見えない)モトカレとの

ツーショットを撮りまくっていたり、

ユリカの見るモトカレ(の幻影)を視覚化させたり、

ユリカのさまざまな心の声が視覚化されて出てきたり、

おそらく確信犯だ。

そもそも、モトカレに高良健吾ですよ。

単にラブコメならジャニーズ系のイケメンでいいはず。

このふわふわして現実感のないモトカレに

高良健吾ほどぴったしな役者っているだろうか。

 

考えてみれば、

今私たちの目の前にある(と思っている)「世界」も、

結局は私たちの五感で感知した情報を

脳で処理して立ち上げたものにほかならない。

究極的には、脳が創り上げた、

バーチャルな世界とも言える。

それがネットなどのテクノロジーによって

顕在化←今ここ、というのが現代だろう。

「ニューロマンサー」「マトリックス」の時代から

とっくに明らかにされていたことだ。

 

ちなみに自分がまず思い出したのは、

ドラマ版「電車男」だった。

あれも、一人の男が「ある女性と仲良くなるため」という目的を実現するために

あれこれ考える、という脳内の動きを

ネットワーク全体に拡張して行う話だったでしょ。

 

とにかくこの

「モトカレマニア」

今クールいちばんの期待作。

最後までこの調子で怪作になるのか、

それともやっぱりふつうのラブコメに収束するのか。
どうなる? 

ところで、田中みな実と山口紗弥加はどう絡むの?



pandawatchingdrama2 at 16:03|PermalinkComments(0)

2019年07月29日

パンドラ〜永遠の命〜

どうも最近、

ワクワクするようなドラマがない。

そう感じてしまうのは、

どうもテレビドラマの在り方が少し変わってきた

ってことなんじゃないだろうか。

けっして作り手が手を抜いてるわけじゃないと思う。

 

テレビドラマの在り方といっても

難しい話ではなく、むしろ有りがちな話なのだが、

一言で言えば、チャンネルが多彩になった、ということ。

フェスで言えば、地上波がメインステージ、

サブにはBSもあるしWOWWOWもある。

こうした多様化は今に始まったことではないが、

このところ、この多様化が定着するにつれ、

発信する場(チャンネル)に合わせて、

コンテンツ(ドラマ)の質そのものが変化しているように見える。

地上波のゴールデンに関して言えば、

ドラマのバラエティ化が進んでいる

という感じかな。

それじゃ一方で、かつて“ドラマ”だったもの、

はどこに行ったのか、というと、

一部の深夜ドラマや、WOWWOWなどの有料放送に、

というように、それぞれ棲み分けが始まっている。

 

それを確かめようと、今回

WOWWOWの昔のドラマ

「パンドラ〜永遠の命〜」をレンタルして観てみた。

内容は、ヒトクローン技術を巡るサスペンス。

2014年に放送された2時間単発ドラマで、

出演は、堺雅人、尾野真千子、石黒賢、鈴木浩介、伊藤歩他。

脚本は井上由美子、演出は河毛俊作。(河毛は脚本にもクレジットされている)

ネタバレになるので、話のスジを詳しく言えないのだが、

地方の小さな診療所の医者・鈴木(堺雅人)は、

実は天才的技術をもったクローンの研究者で、

7年前に行方不明になっていた息子を探している・・・

とこれだけじゃなんのことだかわからないだろうけど、

なんとなく不穏でワクワクするでしょ?

で、実際、めちゃくちゃ面白い、

そして、これはちょっと地上波じゃ無理だな、という内容だ。

 

かといって「映画みたい」なのかというと、

それもちょっと違う。予算に比例するのかもしれないが、

このスケール感、サイズ感はやっぱりテレビドラマなのだ。

ちなみに2014年と言えば、

堺雅人は「半澤直樹」で世間を騒がせた(?)翌年、

尾野真千子は「最高の離婚」で真木よう子とW主演を務めた翌年

ということになる。

 

やっぱりこれからは、

デパ地下のお総菜のような手軽さではなく、

ちょっと重めのしっかりした味を求めるのであれば、

ドラマWをレンタルかな。



pandawatchingdrama2 at 17:24|PermalinkComments(0)